メイド・イン・大田区

ものづくり新書
メイドイン大田区

ものづくり、ITに出会う

  • 著者:奥山 睦
  • 新書:185ページ
  • ISBN-13:978-4903859163
  • 発売日:2008/7/22
  • 定価:1,050円

 

大田区は、東大阪市と並んで「世界に冠たる製造業の町」と言われている。 しかし一九九〇年代のバブル経済崩壊後、大田区の中小製造業の仕事は激減した。実際、 大田区でピーク時約九〇〇〇社あった中小製造業は、二〇〇八年現在では約四七〇〇社となっている。 ただし、このような厳しい経営環境にあっても、確実に生き残ってきた企業は存在する。 大田区の中小製造業はローテクの伝統的な職人技と、NC工作機械やCAD/CAMなどハイテク技術の共存が、その特徴だ。 また事業規模は、従業員四人以下が四割、九人以下だと八割を占める。高度な加工技術の 工場が数多く地域内に密集し、工作機械や専用機械といった優れた生産財を生み出している。 日本の機械工業を支える基盤産業であり、海外でもその技術力は高い評価を受けている。 そして試作品や少量品に特化している。これらは製品単価が高く、小規模・少人数でその技能を活かすことができる。まさに大田区は腕一本でニッチの市場を生きる、いわば今風の言い方だと「SOHO(Small Office Home Office)」スタイルをとうの昔に実現してきたのだ。 さて、この本は四つの章で構成されている。 第一章一歩前へ。 先進的なIT活用や創造的な経営価値にいち早く取り組む企業の紹介。 第二章連携する。 人的・技術的ネットワークで、今日的な課題に取り組んでいる集合体の紹介。 第三章匠の技。 勘と経験によって計測器すらも凌駕するローテクの職人技をもつ企業の紹介。 第四章ものづくりを知る。 ものづくりの現在を知り、未来を考える。 本書は二〇〇五年四月に(株)サイビズから単行本として発行されたものを、二〇〇八年六月 に編纂し、新書として生まれ変わった。 ぜひ一社一社の経営者の生き様をじっくりと読み込んで欲しい。そこには業種を超えたベンチャースピリットの不文律が存在する。実際、私も取材で経営者たちの創業時からの話を聴きながら、思わずもらい泣きをしてしまいそうになったことが何度もあった。 失敗を糧にして何度でも立ち上がる不屈の精神力、開発や試作への特化、ネットワークを駆使したコーディネート型スタイル、国際展開を含めた積極的な市場開拓など、ここ大田区には数え切れないほどの「プロジェクトX」ばりの話がごろごろ埋もれている。その片鱗を少しでも本書を通して感じ取っていただけたら幸いだ。

著者について

奥山 睦

1958 年生まれ。横浜市出身。武蔵野美術大学卒業。 1990 年、企画制作会社有限会社オフィス・ウイルを設立。代表取締役。出版物やホームページの企画制作プロデュースに携わる。 1998 年、(財)マルチメディア振興センターの電子メッセージング協議会(e-ジャパン協議会)より、「電子メッセージング活用優良企業」として、有限会社オフィス・ウイルは「チャレンジ 賞」を受賞。 2000 年、東京都大田区の女性経営者異業種交流会「TES」のメンバーの共同出資によるパソコン指導及びコンサルタント会社、有限会社イーテス(現・株式会社イーテス)を設立。6 年間の代表取締役を経て、現・取締役。東京都大田区の中小製造業、商店などのIT 化支援に携わる。 2006 年7月、株式会社ウイルに組織変更。 2008 年4 月より、法政大学大学院政策創造研究科修士課程に在籍。地域雇用政策について研究中。 国立大学法人静岡大学大学院工学研究科客員教授 独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー 財団法人社会経済生産性本部認定キャリア・コンサルタント

本の中身を少し紹介

大田区のものづくりの底力で製造工程、コスト、環境負荷を削減トキワ精機 株式会社「産業の空洞化」。人件費の安いアジア諸国に製造拠点が流れ、国内製造を圧迫している。そこに「待った」をかけたのが、トキワ精機株式会社だ。大田区のものづくりの技術の底力で、製造工程とコスト、さらには環境負荷への削減を実現した。
■ 中小企業の知財権保護のモデルケースとして
「二週間以上、大田区を離れたことがないんですよ」とトキワ精機株式会社 代表取締役・木村洋一さんはそう言って笑う。生まれも育ちも大田区。同社は一九三二年に木村製作所として創業し、一九六〇年に法人化し現在の社名となる。一九六四年に、油圧継手の製作を始めた。一九六六年に高圧用座付きエルボーを開発し、今日まで油圧継手一筋に手がけてきた。木村さんは四代目の社長だ。今、大田区でもっとも注目を浴びている中小企業の一つである。二〇〇四年一二月、「UFJ信託銀:初の知的財産権信託、製造会社と契約合意」というニュースが新聞紙面を飾った。ものづくりの町・大田区の知的財産権(以下知財権)保護のモデルケースとして同社が脚光を浴びたのである。ちなみにインターネットの検索エンジンで「トキワ精機」と入力すると、このニュースが出てくる。
二〇〇三年七月、政府の知的財産戦略本部は「知的財産推進計画」を発表した。その中に信託の活用が盛り込まれた。同じ時期に信託業法改正についての中間報告が発表になり、信託の受託可能財産に知財権が含まれることになったのだ。大田区の外郭団体である?大田区産業振興協会は、知財に関するプロジェクトチームを二〇〇三年一一月に立ち上げ、一二月にUFJ信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)と共同で知財信託に対する研究会を立ち上げた。そして二〇〇四年四月、区内企業を対象に知財信託に関する初の説明会を開催した。また同年七月に「知的財産総合相談事業」を開始。知財案件の経験が豊富な弁護士や弁理士と連携して侵害相談を行っている。そしてUFJ信託銀行は二〇〇四年一二月二九日に、同社が持つ特許権の信託契約の合意をした。三月に正式契約を結び、特許利用を希望する企業とライセンス利用交渉に入る。UFJ信託と同社の契約が、国内初の改正信託業法で新たに認められる信託分野になる。UFJ信託銀行は同社の特許権を管理し、ライセンス利用者から利用料を徴収して手数料収入を得るというビジネスモデルを作る。中小企業にとって特許取得のメリットは二つ。一つ目は自社製品の信用力を高められること。二つ目は事業の核となる技術の権利化によって経営の安定化を図れることだ。同社の特許は、油圧配管の継手に使われる鉄製の厚肉管を加熱して曲げる特殊な技術である。右肩上がりの時代には、黙っていても優れた技術は相手から買いに来た。しかし現在は、優れた技術こそ積極的にアピールし、また守っていくことが企業経営に必要とされる。