イノベーションというキーワードが日常茶飯事に使われる情報化社会の進展は、いまや情報技術そのものの存在よりもその健全な活用能力を主張できてこそ生み出される新たな価値の創出と持続とが評価される時代を象徴している。一方では情報メディアの喧伝からWeb2.0、SaaS、そしてクラウドコンピューティングなど実体のない概念用語が過去の技術的用語を衣替えして氾濫している。その間、オープンソースソフトウェアという用語が着実に市民権を得て用いられている。ここで、オープンとは元来作り方・使い方の考え方のことであくまでも戦略でありソフトウェア自身の問題ではない。イノベーションの創出・持続とオープン戦略の関係においてその典型例としてソフトウェアの世界を如何に絡ませるかが、技術的、経営的、かつ社会的注目に値しよう。二〇〇七年一一月一八日静岡大学浜松キャンパスで開催された経営情報学会全国大会の特別セッションのひとつでは共催団体としての電子情報通信学会情報システムソサエティソフトウェアインタプライズモデリング研究専門委員会の下で『事業展開のカギを握るオープンソース活用』の内容をテーマにした。自社の強みを活かして広くイノベーションを加速するオープン戦略の一つとしてオープンソフトウェア活用を多くの方々で論じた。その枠組みは以下のとおりであった。オーガナイザ:松田順 綜研テクニックス、坂田淳一 早稲田大学 座長:相原憲一 静岡大学大学院 話題1「オープンソース利用の課題」日熊政行 日本電気通信システム 話題2「エンタプライズでのマッシュアップ利用促進策」片岡信弘 東海大学 話題3「オープンソースの事業活用と評価」 鈴木勝博、坂田淳一 早稲田大学 話題4「地方の中小企業におけるオープンソースビジネスの現状」杉本等 パドラック、相原憲一 静岡大学大学院 同学会大会後に成果を書物にしようとの発表者の意見で、今回の出版まで約1年間調整を図ってきた。わずか1年の間でも時代の変化は激しく出版時に時代錯誤にならないことや、また多数の著者がおり各自の背景が異なることから出版物としての趣旨の合意や記述用語の整理などで、多くの時間を費やした。出版には著者たちの価値共有が一番大切であり、最終的にイノベーションを価値のキーワードとした。イノベーションの源泉そのものがオープンソフトウェアとは認識できなく、実現の加速の仕組みにこそオープンソフトウェアの存在する意義があると結論して本書のタイトルとした。学会当初用いたオープンソースソフトウェアという用語の解釈はオープンソースからなるソフト2 ウェアになるが、ソース自身より広くオープンソフトウェアと捕らえたほうが時代の要求を反映する。時代の要求とは持続可能なイノベーションであり、技術的なこと以上に組織経営的なことや社会生活的なことを目標に掲げることが著者の共有価値に結びつくことが整理でき、読者にも訴えるものがある。
相原 憲一(あいはら けんいち)
松田 順(まつだ じゅん)
日熊 政行(ひぐま まさゆき)
坂田 淳一(さかた じゅんいち)
鈴木 勝博(すずき かつひろ)
伊藤 賢(いとう けん)
杉本 等(すぎもと ひとし)