時代が求める新規事業創出のカギ
『感性』という言葉が色々な場面で注目されている。均一化社会を生んだ大量消費に向かう効率性重視の時代が終焉を迎えて、個性重視の人間性を生み出す感性豊かな社会構造において、生産から生活までを社会の我々が期待している証拠でもある。但し、感性とは何かというと問いに対して、五感であるというヒト、感情と区別が出来ないヒト、人間力と答えるヒト、地域ブランドでもある、など様々である。感性はビジネスを促進するものとは解釈したくなかった時代が長かった。せっかく生活者目線でデザイナーの 個性を活かした企画製品でも商品化するには、市場を把握していない社内関係者にいじくり廻されるのが常であった。その結果は、言うまでもなく店頭で誰も反応しないことに。でも、時代は大きく変わった。主役は生活者であり彼らの反応を予測して一歩先にビジネス展開できるようでなくては競争に勝てないし持続しない。 静岡大学大学院事業開発マネジメント専攻は社会人を対象として二〇〇六年四月に工学研究科内に開設されて、同年度から地域の賢者にも意見交換の機会があるオープン講座を専攻主催で企画した。その目的は、地域に開かれた社会人大学院の役割を果たすため講義を公開して相互の刺激を養う役割の一環である。そして、二〇〇六年度後期から二〇〇七年度後期まで一貫して『感性』をキーワードに社会現場の先端を歩み人々に話題提供頂き参加者の活発な議論を展開した。本書はその意見交換を踏まえて後日主張点をまとめたものである。 工学研究科が何故『感性』をテーマにするのかという疑問が当然あることを予測して、著者の一人である相原は一年半継続した感性テーマのオープン講座の締めくくりに一言念を押して説明した。エンジニアリングすなわち「工学」とは、古代の語源をたどると「勝利に向かって前進する全体の仕組みづくりである」と。そこには、単なる技術そのものではなく、組織やプロジェクトを動かす人間力、継続的な活動を生む財務力、革新的な技術の継承力、全体のデザイン力、など経営そのものに結びつく仕組み全体であることをほとんど理解できていないそれまでの現実があった。後日、参加者のブログに「エンジニアリングは技術だけではないことにやっと納得できた」との本人の発言があり関係者一同大変印象深かった。 本書は、このような背景から生まれたものである。我々著者一同はオープン講座での意見交換などを通して、『感性を活かす』ことを自己主張してみたが、さらに一歩進んで、社会にオープンにすること自身がダイバシティを生むことになるはずであり読者からの想定外の反応に価値があるのだ、との心意気で出版を企画した。
相原 憲一(あいはら けんいち)
梯 郁太郎(かけはし いくたろう)
石井 正純(いしい まざずみ)
吉良 康宏(きら やすひろ)
秋山 雅弘(あきやま まさひろ)